neosry_2097's story
chapter1 / 2019年都会を知らない少女
年々、正月の忙しなさから遠のいていくような年越しを過ごし、
名残も感じられぬままに喧騒の中心を歩いていた。
1月の空気が耳たぶを紅らめ、鼻から漏れる白息が、豆大福の片栗粉のように纏わりついていた。
平日の白昼はさすがに人が多く、数メートル歩くのも困難だった。
趣味がいつの間にか癖になったように通う、渋谷交差点のカフェへ流れ込み、
「いつもの」というようにお気に入りを注文し、2階へ登ると交差点に面したガラス張りの窓際席からの人間観察。
梅溪成行(うめたにしげゆき)32歳は去年まで自営していたITの会社を、不慮の詐欺(笑)にあい潰してしまった。
それからというもの再起を図るべく開発に勤しむ医療系アプリのサンプル研究のため、半年程度も通い詰めた人間観察スポットである。
いつものように視界を遮る抹茶ティーラテの湯気を、鼻から吸い込みながらじっと交差点を眺めていた。
窓に薄く映る自分と人ごみとを交互に見ながら、マグカップに手を伸ばした瞬間。
砂時計の砂が、流れ落ちるように交差する人ごみの中、明らかに異彩を放つ少女を見つけた。
スマホを見下ろしながら歩く対向者たちが不思議と道をあけ人波が割れていく様は、
まるで予言者モーゼが約束の地カナンを目指して海を割った、まさにそれではないかと錯誤してしまうほどだった。
少女は人ごみを一直線に進みながら地下鉄の入り口に吸い込まれていった。
梅溪は口が半開きのまま少女に見入っていたが、正気を取り戻すやいなや無意識にエスカレーターで地下へ向かっていた。
さすがにもう見つからないかも、とも思っていた。すると、一瞬ツンとくる臭いがした。
「そうか、渋谷にもよく居るからな。」それでも何か違和感のある空気を感じていた。
エスカレーターを降り、地下について広めの通路に出ると視線を遠くにやった。
その先には交差点にいた少女が、目的もないような歩き方で奥へ向かっていた。
「見つけた!」はいいが「ん?何してんだ俺?」と思いながらも、
少女が壁にぶつかる瞬間に見えた義手のような左手が無性に気になった梅溪は、
少女を観察してみたい欲求に駆られていた。
咄嗟に構えたスマホを2本の指でズームし画面を除くとやっと彼女の表情を覗くことができた。
目の下にタトゥー?なのかメイク?なのか、ピンクの三角形が描かれている。
「これは若い子のトレンドなのかな?w」。
どことなく不思議な雰囲気を醸し出す少女は地下街の路地へと消えていく。
なかなか出会わないようなサンプルに胸を躍らせながら、梅溪は_後を追い続けた。